少額訴訟は画に描いた餅

 前から思っていたことだし、世間でも以前から手当ての必要が言われている問題に、少額(50万円未満程度)の貸金や売掛金の回収のための司法制度の不備がある。
 簡易裁判所少額訴訟を利用して(本人訴訟で)、確定判決を得るところまでは難しくない。多くの場合、債務者に弁済を拒む正当事由などないし、欠席のため第1回口頭弁論でケリがついてしまうことも多い。

 問題はその後だ。

 債務者に家・土地などの財産があれば格別、多くの場合、借事務所などで商売をしていて、めぼしい財産といえば自動車かパソコン(これも今日では財産といえるかどうか)くらいしかない。

 強制執行には、確かに「動産執行」というものが用意されている。しかしながら、現実にはさまざまな制約が法律上や、各裁判所の内規にあって、事実上、機能していないらしい。

 以前に20万円程度の売掛金回収に約半年かけて(やろうと思ってから判決をもらうまで)、強制執行にたどりつき、債務者の所有する中古自動車を差し押さえようとした。ところが執行官室で、やめておけ、と言われた。自動車の「鑑定費用」が10万円かかるのだそうだ(どんな業者使っているんだ)。すると相手のボロ自動車がせいぜい5万円とすれば、費用倒れとなってしまう。またパソコンはデータが入っているから差し押さえの対象にはならないと内規で決めているのだという。(どーでもいいけど、このパソコンを差し押さえできない理屈は理屈になっていない。データの入っていないパソコンなんて存在しない以上、使っていれば差し押さえできない、という理屈になる。しかし他の動産だって、ほとんど使用中のもののはずである。それとどう違うのか。思うに、執行官が知識不足で怠慢なため、パソコンに手を出さないのではないか)また、5千円以下の動産も差押できないというが、その価格判定基準は新品の1割だという(いいよなあ、それって全部、償却済扱いってことだろ、資産税かかんないのかね)。結局、動産執行できる品物はないことになる。

 以上は、これまでにわたしが体験した話。

 ここから先は、今回の体験。

 懲りないわたしは、またも少額訴訟判決をもって動産執行の申し立てをした。ところが、執行官の態度が実に悪いのだ。前回の執行官は(それが形だけだとしても)気の毒そうに、費用倒れの可能性を説明してくれた。
 実は今回も、費用倒れの可能性はあるとは思っているが、判決後約1年に渡り、督促交渉をして、何度もだまされた相手なので、それにお灸をすえるつもりで、申し立てをした。
 ところが窓口で「動産執行」と言った段階で、顔をしかめて「面倒くさい」との意思表示をした執行官がいる。別の執行官が出てきて親切に説明してくれたが、事務員が多忙とのことで、とりあえず書類を置いて帰ってきた。それから2日たっても何の連絡もないから、こちらから電話を入れた。すると、どうやら担当は「顔しかめ」執行官になったらしい。
 電話を代わった彼に「受理になりましたか」と形式的に尋ねた。本人手続きなので、書類の不備はないかを尋ねたつもりだったが、その返事は「そりゃ提出されれば、受理しますよ」という返事だった。
その上で、彼が言うには「前回の窓口での説明を聞いていたが、相手の会社には差し押さえるようなものはない・・。」
黙って聞いていれば、否定的な言辞、会社の会議でもっとも軽蔑される「できない理由」の列挙をくりひろげた。会社の場合、「どうすればできるか」を考えるために会議をもつ。行動しない人間が、その場で「できない理由」のみを述べても相手にされない。

 しかも「受理します」と言いながら、実際にはこちらから電話をするまで、日時の連絡も担当官の連絡もしなかった。このまま「棚ざらし」にするつもりだったのではないのか、とさえ思う。しかし実際には、申し立て費用納付の手続きも開始されているので、そのままにはできない筈だが。

 わたしはついに逆襲してしまった。こちらは費用と時間をかけて判決をとり、法に則り、権利を行使しようとしているのに執行官ができない、というのでは少額訴訟制度は利用しないほうがよい、ということになる。それは司法制度への信頼を裏切るものではないか、と。
 わたしの剣幕に、やや態度を改めた執行官は渋々日程を入れた。しかし「結果は期待しないでくれ」と、やる前からのご託宣である。いやはや・・。

 裁判官の皆さん、あなた方が書いた判決はこんな執行官たちによって反古にされてしまうのです。
そして「キリトリヤ」のような民事介入暴力が、はびこる温床となるのです。
皆さん、強制執行の民営化を実現しましょう。あんな執行官=公僕を税金で養う必要はない、と思います。