また翻訳について

 この夏以来、山形浩生さん(口が悪くて、頭がいい人。性格はSF者出身だから・・・。あと、金持ちだそうです)の翻訳本を読むことが多く、例の悪翻訳ストレスは感じなかったのですが。

 図書館で「大英帝国の伝説」(S・L・バーチェフスキー著、野崎嘉信/山本洋 訳 法政大学出版局刊)という本を借りてきて読み始めました。

 久しぶりにイライラさせてもらいました。翻訳者の経歴をみると、野崎さんは英文学者さんなんですね。だから、日本語に不自由なんでしょう。でもさあ、それなら翻訳はできないって、辞退すればいかがですか。せいぜい監修の地位にとどまれば、みんな迷惑しないのに。


 イライラしている点その1
「序言」の中で「ブリテン(ブリティッシュ)」「イングランド(イングリッシュ)」の区別を論じている。これはこの後の展開でも重要な区別らしいのだけれども、「序言」にはほかに「英国の」という表現が出てくる。これってどう読む?原文はどちらの単語を使っているの?原文と照らし合わせて読んでいるわけじゃない読者のことを考えたら、この表現はないでしょう。

 イライラ点その2
とりあえず第一章まで読了した時点で、「テニオハ」がひどくて、意味がとりにくい。また単語を直訳して、つなぎ合わせて日本文としているだけなので、日本語の文章として意味をなしていない箇所が見受けられる。
自分で原書を辞書を引きながら読んでいるような時なら、こんなアイマイな理解でも納得してしまうのですが、仮にも活字本の出版物で、学生の下訳レベルのまま、というのは困ります。また、修飾語である副詞や形容詞がどこにかかるのか、わからないこともある。そもそも日本語の副詞と形容詞の区別、使い分けを知っているのか疑問になるような文さえ見受けられる。

 イライラその3
読んでいて、誰の話をしているのか、いつの話をしているのかがわからない部分がある。原文がそんな展開なのかもしれないが、翻訳者がそれに無頓着で、果たして意味が通るのだろうか。チューダー朝なのかスチュアート朝の話なのかわからなくなるし、10ページの「このアナグラム」って、どのアナグラムのことだ?

 頼みますから、編集者の皆さん。「学者」の「翻訳」を、そのまま金とって読ませるのは危険だと認識してください。本格的な専門書や研究書が、日本で読まれなくなった背景には、このような悪訳や誤訳の存在が大きいのです。原語のほうが、翻訳より理解しやすい、なんてバカな現象が少なくないのは、編集者の怠慢ですよ。

大英帝国の伝説―アーサー王とロビン・フッド (叢書・ウニベルシタス)

大英帝国の伝説―アーサー王とロビン・フッド (叢書・ウニベルシタス)