入院から1年

 前立腺ガン治療のために、重粒子医科学センター附属病院に入院したのは1年前の今日でした。そのときの気持ちは「まな板の上の鯉」といったもので、正直に言って「なるようになれ」というものでした。

 しかし、入院中に他の患者さんと話すことで、気障ですが「感謝」の気持ちをもつようになりました。実直そうな初老の患者さんが、照射開始の前日に「転移」が見つかって、治療中止になり、翌日退院となった事件がありました。そのあと、残った別の患者さんと、お互いに「心から」、自分たちの幸運に感謝しました。

 それから1年。正直言って、重粒子治療でも前立腺ガンは「後遺症もなく完治した」とはいえません。それでも全摘手術を受けられた患者さんの体験談と比べれば、はるかにQOLは良い、といえます。贅沢を言ってはいけませんね。

 経過観察のための血液検査が1〜2ヶ月おきにあり、PSAの値に一喜一憂しています。それも前立腺が残存しているがゆえの悩みといえますが、あまり気持ちのいいものではありません。採血の看護士さんは「これからだんだん間隔があいていきますよ」と慰めてくれます。

 思えば、人間はいつかは死神に追いつかれるレースを走り続けているランナーなのです。だから仮に前立腺ガンが発覚する前の状態に戻ったとしても、それで走り続けることを止めるわけにはいかない。つまり、日々、生きていく状況は変化していくわけで、その中で楽しむ、楽しまないはその人の勝手ということです。1年前には、重粒子線治療が受けられることすら感謝できたのでした。よく考えれば、そんな治療を受けなければならない破目に陥ったことを嘆いても不思議ではないのに。

 司法試験の試験結果はまだわかりませんが、今は別の試験の準備もはじめました。こんなことばかりしている人生なんて、と思うこともありますが、とりあえず「前向きに」生きていくほうが、心地よいので、目先の課題に集中しています。

 さらに、この夏は、経済学という興味分野を増やすことが出来、読書の範囲が広がりました。この先の人生も、もっと多くの古今東西の人々と知り合いたいと思います。同時に生身の人間とのつきあいも、そろそろ増やしていかなければならないでしょう。死んだ親友は、あの世から連絡してくれませんから。

 もっとも、このブログを家人が見たら、「一番身近な生身の人間とのつきあいをもっと大切にせい」と怒りますね、絶対。