半島を出よ

 話題のベストセラー。

半島を出よ (上)

半島を出よ (上)


 感想としては、中途半端な作品と感じたということ。


 冒頭のホームレスが住む川崎の情景や、その背景としての日本経済破綻からアメリカによる切捨てまでが、非常にリアルに描かれていて、思わず引き込まれてしまう。流石だと思う。

 ただその後が続かない。たとえば、さまざまな犯罪を犯して行き場のなくなった少年たちの描写や書き込みが足りないと思う。巻頭に登場人物の詳細なindexがついているが、悪く言えば本文を読んでも、そのindex以上の情報や思い入れを得ることができない。

 福岡占領後の、東京のエピソードなども、単なるスケッチ以上の域を出ていない。戯画化された政府首脳や高級官僚には、リアリティがない。

 逆に、作者の力の入れ方が違う「高麗遠征軍」の描き方だが、これも後半までには平板になり、昔々の梶原一騎作品を思わせる肉体描写などにうんざりする。

 ただ以上のような欠点は冒険小説やミステリーにはよくあることだし、作者は別にウェットな人間描写をしたくてこの作品を書いているわけじゃないのだろうから、あとはストーリー展開に期待するしかない。ところがこれが「7人のオタク」なんだもの。クライマックスのシーホークホテル爆破だって、盛り上がりがないし、また侵入発覚後の措置だって、どうしてそんなに甘いの?というご都合主義で、しらけていくばかりだし・・。

 結局、この作品はよくある退職官僚や退職幕僚長たちが書く「小説」に似たレベルの「日本の現状に警鐘を鳴らす」お話だということなのでしょう。でも、それだったら、昔の小松左京の「日本沈没」の方がリアルだったな。

 読後に本は売ってしまいました。