久しぶりに旧司法試験ネタ

旧司法試験(従来型司法試験)は、一応、制度切替の経過措置として、毎年ごくわずかの合格者を出しながら続いてきましたが、今年が最後です。去年の合格倍率は択一受験からカウントして100倍以上となっています。
受験者数は毎年減少しており、また弁護士という職業自体に魅力がなくなってしまったこともあり、もはや受験参考書も少なくなってしまいました。
その中で、受験予備校の講師である柴田孝之氏は、法学書院から平成21年度旧司法試験論文式解説を出されました。
かつては過去問の解説本は掃いて捨てるほど出たものですが、今や貴重品なので、わたしはすぐに買いました。受験するつもりなのです(どうするんだ、行政書士は?)。

去年は、一昨年の合格率の低さに受験を断念しながら、周囲に言われて受ける、という最悪のパターンで択一落ちしたものだから、逆に論文問題の検討をする時間がありました。

そこで刑法第一問。

甲及び乙は, 路上を歩いていた際, 日ごろから仲の悪いAと出会い,口論となったところ,立腹したAは甲及び乙に対し殴りかかった。甲は,この機会を利用してA に怪我を負わせてやろうと考えたが, その旨を秘し, 乙に対し,「一緒に反撃しよう。」と言ったところ, 乙は甲の真意を知らずに甲と共に反撃することを了承した。そして, 甲は, Aの頭部を右拳で殴り付け, 乙は, そばに落ちていた木の棒を拾い上げ, Aの頭部を殴り付けた結果, Aは路上に倒れ込んだ。この時, 現場をたまたま通りかかった丙は, 既にAが路上に倒れていることを認識しながら, 仲間の乙に加勢するため, 自ら別の木の棒を拾い上げ, 乙と共にAの頭部を多数回殴打したところ, Aは脳損傷により死亡した。なお, Aの死亡の結果がだれの行為によって生じたかは, 明らかではない。
甲, 乙及び丙の罪責を論ぜよ( ただし, 特別法違反の点は除く。)。

ここで、乙の罪責について柴田さんは、甲乙の共同正犯成立を前提にして、
「乙については行為の最初から最後まで関与していることから、死の結果について帰責できる」と参考答案で書いておられます。また「乙は行為の当初から最後まで関与しているから、Aの死の結果が帰責されることに疑いはない」と言い切っています。
しかし、Aの死が丙の行為によるものである可能性がある以上、丙との関係を論じる前に、このような表現で乙にAの死について帰責するのは妥当ではないと思います。柴田さんは、甲乙と丙が同時傷害の特例に該当するとしていますが、傷害致死に207条の適用はない、との見解も有力です。いずれにしても、207条があるから、乙にAの死を帰責できるかもしれないのであって、なにも最初から最後まで乙が関与していたからではない、と思います。

もっとも、わたしも検討したとき、乙については、Aの死が甲の行為によるとしても、丙の行為によるとしても、もちろん乙の行為によるときは当然だから、いずれにしてもAの死が帰責されると思いました。しかし、甲と丙の行為の結果について乙が責任を負うためには法的根拠があり、それぞれの要件を充たすことが必要なのです。だから答案では根拠と要件充足を表現しなければならない筈です。それが法的文章というものでしょう。

自分の読み込み不足は自覚しておりますが、どうも納得できない解説及び参考答案でした。